経営難に陥っている会社はほとんどの場合破産できる
破産法が定める破産の要件は、法律用語でいうと「支払不能」と「債務超過」です(破産手続開始原因)。
これをわかりやすく言い換えると、毎月の支払に苦しんでいるような経営状態の会社であれば、ほとんどの場合会社破産ができます。そして、破産すれば会社の債務は税金なども含め、全て支払わなくて良くなります。
例えば、資金繰りがつかず取引先や銀行への支払が遅れている場合、手形を落とすことができない場合、従業員の給料の支払ができない場合、債務の返済のために新たな借金をしている場合など、いわゆる経営難、自転車操業の状態の会社であれば会社破産ができます。
以下では「支払不能」と「債務超過」について説明します。
「支払不能」とは
「支払不能」とは、債務者が支払能力を欠くために、弁済期にある債務を一般的かつ継続的に弁済することができない状態のことをいいます(破産法第2条11号)。これは会社が有している財産・信用・今後の収入などによっても、弁済期にある債務を返済できない状態です。
例えば、債務の返済のために別の貸金業者から借金をしているような場合は、形式的には返済をできてはいるものの、実質的に債務を返済できない状態にあるといえ、「支払不能」にあたります。他方で、会社の売上が伸びていて今後返済できる見込みがある場合には、現在お金がない場合でも「支払不能」にはあたりません。
その他、手形の不渡りや夜逃げ、支払いができないことを債権者に通知したような場合には、支払不能であると推定されます。
「債務超過」とは
「債務超過」とは、債務総額が資産総額を越えている状態のことをいいます(破産法第16条)。
例えば、会社の現金・預貯金・売掛金・什器備品などの総資産が500万円で、債務(借金・負債)が2,000万円であるような場合です。
ここでの資産の評価は決算書上の評価額ではなく、現実の評価額が基準となります。例えば、決算書では1,000万円と計上されている機械工具類であっても、現実には売却困難で資産価値がゼロの場合には、ゼロ円評価となります。
なお、債務超過を理由に会社破産ができるのは、株式会社・有限会社・合同会社のみとなります。合名会社・合資会社は無限責任社員(会社の債務について連帯保証をしていない場合でも全額支払義務がある社員)がいるため、債務超過を理由に破産はできず、支払不能の場合のみ破産ができます(破産法第16条第2項)。
よくある質問
会社破産をしないまま会社を放置してはいけないのですか?
「どうせ営業を停止するのだから、わざわざ会社の破産手続をしなくてもいいのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、会社の破産手続を行わなければ、債権者や取引先からの取立や支払催促は止まりません。債務も免除されません。
そのため、きちんと会社の破産手続を行うのは重要であるといえます。
弁護士法人焼津リーガルコモンズでは、「赤字の会社を何もしないまま数年間放置してきたものの、債権者からの取立や支払催促の連絡が止まらずにもう疲れ果ててしまいました」という経営者の方から、会社と経営者個人の破産申立を依頼されることがございます。
詳しくは「会社破産のメリット・デメリット」をご覧ください。
会社破産をせずに、経営者・代表者のみが個人破産することはできますか?
残念ながら、個人破産のみ行うことはできません。どこの裁判所でも代表者が個人破産をする場合には必ず会社と一緒に破産申し立てをするように要請されます。
なぜかというと、個人破産だけを認めて会社破産をしないでよいと認めてしまうと、誰も会社破産をしなくなってしまい、実態のない会社だけが放置されて残り、社会が混乱してしまうからです。
また、会社が破産しないまま残ってしまうと、債権者は税務上損金処理ができなくなるなどの不利益が生じてしまいます。そのため、逆に債権者である金融機関から、「このまま借金を返済できないのであれば、こちらとしても損金処理をしたいので、破産されてはいかがですか?」などと提案される経営者の方もいらっしゃるくらいです。
なお、上記とは逆に、会社破産のみ行い、代表者の個人破産は行わないということは可能です。
経営者・代表者が日本国籍でなくても会社破産、個人破産は可能でしょうか?
日本国籍でなくとも会社破産・個人破産のいずれも問題なく可能です。
①粉飾決算をしてしまっている、②直近数年分の決算書がない、③法人税の申告をこれまで一切しておらず、決算書も全く存在しない場合でも、会社破産できますか?
このような場合でも会社破産をすることはできます。もっとも、決算書を紛失してしまった場合、顧問税理士に依頼していたのであれば税理士が控えを保管しているので、税理士から決算書を取得して頂く必要があります。
会社が帳簿上は黒字でも破産できますか?
帳簿上(形式上)黒字であっても、現実に(実質的に)「支払不能」又は「債務超過」の状態であれば、会社破産することはできます。
現在2つの会社を経営しています。1つの赤字会社を破産させて、黒字のもう1つの会社だけ残すことは可能でしょうか?
経営者・代表者が同じでも、別の会社であれば赤字の会社のみ破産することは可能です。
もっとも、経営者・代表者も個人破産する場合には注意が必要です。
現在の会社法では個人破産は取締役の欠格事由とはなっていませんが、存続する方の会社の取締役としては、同会社から委任を受けて取締役に選任されているため、取締役の個人破産によって委任契約が終了すると民法で規定されています(民法第653条)。
そのため、個人破産をした後、存続する会社の株主総会を開催し、新たに取締役の選任手続が必要となります。
参考
第六百五十三条
民法
委任は、次に掲げる事由によって終了する。
一 委任者又は受任者の死亡
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。