個人の債務整理手続(個人破産・個人再生・任意整理)
経営者が会社の連帯保証をしておらず、個人でも債務がない場合(又は破産しなくても返済できるくらい少額である場合)は、会社破産のみ行えば良く、経営者の生活上の制限は特にありません。
しかし、実際には経営者が会社の連帯保証をしている場合がほとんどです。この場合、たとえ会社破産をしても、経営者は債権者から連帯保証債務の請求をされてしまいます。経営者自身も連帯保証債務から免れるためには、個人も債務整理をする必要があります。
個人の債務整理手続には、個人破産・個人再生・任意整理の3つの手続があります。
- ① 個人破産
- 財産がないため債務の返済ができないことを裁判所に認めてもらい、一定の財産を処分する代わりに、債務の支払義務を免除してもらう手続
- ② 個人再生
- 債務の返済が困難であることを裁判所に認めてもらい、今ある財産を処分せずに、債務の総額を減額してもらい、減額された債務を3年から5年の分割払いにしてもらう手続
- ③ 任意整理
- 弁護士が代理人となって金融機関等と毎月の返済金額の減額や利息のカット等を交渉し、債務の支払いを生活に支障のない範囲に減額する手続
会社破産の場合、任意整理を選択することはほぼない
なお、会社破産をする場合に任意整理を選択することはほぼないため、ここで詳細について書くことはしません。なぜなら、会社破産をする場合は債務額が大きいことが多く、任意整理の方法では経営者の生活を立て直して再出発することができないからです。
例えばですが、会社の債務額が3000万円で、その全額につき経営者が連帯保証をしている場合、各債務整理手続における(連帯保証債務の)返済額は以下のようになります。
個人破産 | 0円 |
---|---|
個人再生 | 300万円 |
任意整理 | 3000万円(+遅延損害金) |
このように、任意整理では会社の債務額の全額(3000万円にさらに遅延損害金も)を支払わなければならず、それは事実上不可能です。
個人破産、個人再生と違い、任意整理にしかないメリットの中には「官報に掲載されない」というものがありますが、それも大したメリットではありません。
官報は国の機関誌で、全国の裁判所の破産事件についての情報などが掲載されますが、一般の方が官報を閲覧する機会はほとんどなく、親戚・友人・知人の方々に破産や個人再生をしたことを知られることはほぼないからです。
以上から、債務額が少額で任意整理でも十分に返済可能であれば任意整理を選択することも検討すべきものの、それ以外を除き会社破産の場合に経営者の方が任意整理を選択するメリットはほとんどないと言ってよいです(なお、任意整理であっても個人信用情報機関(いわゆる「ブラックリスト」)に登録されてしまいますから、この点でも任意整理を選択するメリットはありません)。
よくある質問
「個人破産」と「個人再生」のどちらの手続を利用したらよいでしょうか。
一般的には、債務がゼロになるため「個人破産」が最適な方法であることが多いです。実際にほとんどの経営者の方が「個人破産」を選択しています。
しかし、例えば
- ① 住宅ローンは残っているが今後も自宅に住み続けたい場合
- ② 資格制限(宅地建物取引主任者、旅行業務取扱管理者、保険外交員、警備員、証券外務員など)を回避したい場合
- ③ 免責不許可の可能性が高いため破産が困難である場合
などには、「個人再生」を選択することになります。
なお、時々「『破産』という響き、印象が良くないので個人再生をしたい」とおっしゃる経営者の方もいらっしゃいますが、個人破産と個人再生のいずれを選択しても官報には掲載され、ブラックリストには登録されてしまいます。また、どちらの手続でも戸籍・住民票・免許証など身分証明書にその事実が記載されることはありませんし、選挙権もなくなりませんので、そのような理由で個人再生を選択するのは得策ではありません。
「ブラックリスト」とはどういうものですか?
弁護士が依頼者の方から個人破産・個人再生・任意整理を受任し、金融機関や消費者金融会社に受任通知を送付すると、個人信用情報機関に事故情報として登録されます。これを「ブラックリスト」といいます。
ブラックリストを管理する個人信用情報機関には、
- 全国銀行個人信用情報センター「KSC」
- 株式会社シー・アイ・シー「CIC」
- 株式会社日本信用情報機構「JICC」
の3社があります。これらの機関に情報が登録されてしまうと、今後5年~10年間はその記録が残り、その間金融機関等からの借り入れ、クレジットカードの利用・新規作成、住宅ローンや自動車ローンの申し込みができなくなってしまいます。
税務署や国税局の人から「会社が破産しても、社長個人が支払わないといけませんよ。」等と言われたのですが、それは本当でしょうか?
結論から申し上げると、そのようなことは全くありませんのでご安心ください。会社が滞納してしまった税金はあくまで会社に支払義務があるもので、たとえ経営者・代表者であっても個人が代わりに支払義務を負うことはありません。
もっとも、税務署や国税局から「代表者個人が連帯保証を負うことの承諾書」のような書面を代表者個人に差し出され、それに署名押印してしまったような場合は代表者個人が責任を負う可能性があります。そのため、個人で連帯保証しなければならないような内容が記載されている書類には絶対に署名押印しないようにしてください。他方で「債務承認書」のような書面に「会社の代表者として代表印での押印」は問題ありません。連帯保証の書面との区別が困難な場合は、弁護士法人焼津リーガルコモンズにご相談ください。