はじめに
会社破産の際に絶対にしてはいけないことは以下の3つです。
- ① 一部の債権者だけに支払・返済をしてはいけない。
- ② 弁護士に嘘をついたり、資産を隠したりしない。
- ③ 新たに借金やクレジットカードを利用する等して、債務を増やさない。
③は、「もう破産をするから、新たに借金や無駄遣いをしても返済しなくてよい」という意思で行ったと判断されて、刑法の詐欺罪で処罰される可能性があります。
以下では①、②について詳しく説明します。
① 一部の債権者だけに支払・返済をしてはいけない。
これは破産をする際に守らなければならない重要なルールになります。以下説明します。
破産手続には、「債権者平等の原則」というものがあります。会社が破産申立をした後、裁判所が破産管財人を選任されると、会社の資産の管理処分権限は全て破産管財人に移りますが、破産管財人が会社の資産を換価した後、この「債権者平等の原則」に従って、債権者の債権額で按分・公平に配当を行います。
この原則は、破産申立後に限らず、破産申立「前」にも適用されます。つまり、弁護士に相談したり破産申立をする前であっても、一部の債権者だけに支払・返済することは許されないのです。
経営者の方の中には「数十年来の付き合いのある取引先にだけは迷惑をかけられないのでどうしても支払いたい…」「親戚にはこれまで何回も借金をして迷惑をかけているので返済したい…」という方が沢山いらっしゃいます。そのお気持ちは十分に理解できます。
しかしながら、そのような行為をしてしまうと、破産申立後、破産管財人が取引先や親戚の方に対し、「受け取ったお金を返しなさい」と取り戻しの請求を行うことになります。これを「否認権(の行使)」と言います。
場合によっては、訴訟提起までされてしまうこともあり、逆にお世話になった方にご迷惑をかけてしまうことになります。「隠れて支払えばばれないだろう」と考え、一部の債権者に支払おうとされる方もいらっしゃいますが、破産管財人は財産の流れを事細かにチェックしますので、必ず発覚します。
そのため、弁護士に相談する前であっても、一部の債権者だけに支払・返済することは絶対しないようにお願いします。
② 弁護士に嘘をついたり、資産を隠したりしない。
破産申立の準備段階や申立後の段階になって、経営者の方が法律相談やご依頼時に弁護士に説明していた内容と異なる事実、全く説明していなかった事実が判明することが時々あります。特に資産関係のことが多いです。
破産した後の生活のために、できるだけ資産を残したいお気持ちもわかりますが、破産管財人は全ての預金通帳をチェックしますし、郵便物は全て破産管財人に転送され、その郵便物から資産隠しが発覚することがほとんどです。
資産隠しは詐欺破産罪(破産法第265条)という犯罪行為です。発覚すると警察に逮捕される可能性もありますし、起訴されれば刑事裁判となり、有罪判決を受けると「10年以下の懲役又は1,000万円以下の罰金」という厳罰に処せられる可能性があります。
経営者自身も個人破産を申し立てる場合、「自由財産」として99万円以下の現金は手元に残せますので、資産隠しを含めて事実を隠したり嘘をついたりすることはしないようにしてください。
参考
第二百六十五条
破産法
破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
よくある質問
「否認権」とは何のことですか?
否認権とは、会社が経営難にあるときに、一部の債権者のみに支払・返済をする等で有利に扱い、債権者間の公平を害する行為をした場合や、本来100万円の価値のある財産を不当に安い金額(例えば1万円)で売却するなどの債権者を害する行為をした場合に、破産申立後にその行為の効力を否定(否認)し、流出してしまった会社の財産の取り戻しを図る制度で、破産法に規定されています。
否認権は破産管財人が行使し、破産管財人が財産の取り戻し作業を行います。
例えば、一部の債権者(親戚、友人、知人などを含む)にだけ返済する行為や、会社の資産を無償または不当に安く譲ったりする行為をすれば、破産管財人は返済を受けた債権者や財産の売却先等に返却するよう求めます。場合によっては、訴訟提起までされてしまうこともあり、逆にお世話になった方にご迷惑をかけてしまうことになります。
以上の通りですので、先にも述べましたが、一部の債権者だけに支払・返済をしたり、財産を不当に処分することは絶対にしないようにしてください。
得意先から「うちだけにはなんとか支払をしてくれないか」と迫られています。どのように対応したらよいでしょうか?
このような場合でも支払いをしていけないのは前述の通りです。
もししつこく迫られても、「私としても支払いをしたいのはやまやまですが、弁護士からそれは絶対にしてはいけないと言われています。せっかく支払っても、あとで破産管財人が支払った分を取り返すために、あなたのところに請求に来るので、逆にご迷惑をおかけすることになります。」と答えてください。
弁護士に早期に相談し、会社破産を依頼すれば上記の対応は弁護士が代わりに行うことが可能です。悩まれている経営者の方は、ぜひ弁護士法人焼津リーガルコモンズの無料法律相談をご利用ください。
会社の破産申立前に会社の資産を売却することは可能ですか?
破産申立前に資産を売却することは可能です。例えば、会社所有の不動産や自動車を破産申し立て前に「適正価格」で売却し、それを破産費用に充てることはよくあることです。
ただし、ここで認められるのはあくまで「適正価格」での売却です。適正価格より安く売却してしまうと、前述のように不当な財産処分として破産管財人が「適正価格との差額」を買主に請求して取り戻します(否認権の行使)。
よく経営者の方から、「不動産や自動車を家族・親戚、友人・知人に安く売却しても大丈夫ですか?」と質問されますが、安く売却してしまうと前述の通り破産管財人が必ず取り戻しますし、そのようなことをした代表者・経営者も不利益な扱いを受ける可能性があるので、決して行わないようにしてください。
実は粉飾決算をしています。このような場合も会社破産はできますか?犯罪として処罰されてしまいますか?
粉飾決算をしている場合でも会社破産をすることは可能です(会社破産に陥ってしまう会社は、多かれ少なかれ決算書の記載と現実とがかけ離れていることがままあります)。
また、これまで粉飾決算をしている会社の破産申立を何度も行っていますが、刑事罰を受けた経営者の方はいませんので、ご安心ください。