私的整理とは
「私的整理」とは、裁判所が関与せずに、会社が債権者と個別又は集団的に任意交渉(弁済金額や弁済方法等の条件について)を行い、債権者の同意を得て会社を清算又は再建する倒産手続のことをいいます。
私的整理のメリット
① 債務整理の対象の債権者を限定できる
会社破産・特別清算・民事再生・会社更生等の法的整理の場合、全ての債権者を対象に債務整理しなければなりませんが、私的整理ではそのような制限はなく、一部の債権者のみと債務整理することが可能です。
例えば再建型私的整理の場合、取引先の債務はそのままで、金融機関の債務だけを整理するという方法も可能です。
② 手続が自由で、短期間で整理を終了できる場合がある
私的整理は、法的整理とは異なり手続が法律で定まっているわけではないため、債権者との合意があれば自由に決めることが可能であり、それゆえに法的整理よりも短期間で終了できる場合もあります(「私的整理ガイドライン」では3ヶ月程度で終了することが予定されています)。
私的整理のデメリット
① 対象債権者全員の同意が必要
法的整理の場合は一定数の債権者の同意で手続が利用できますが、私的整理の場合は整理の対象となる債権者全員の同意が必要で、一人でも反対すると利用できません。
そのため、債権者が多数の場合や強硬に反対する債権者が一人でも存在する場合は利用できず、これが私的整理の最大のデメリットといえます。
② 保全処分の制度がない
私的整理は自由な反面、保全処分などの法的制度がないため、債権者から強制執行等をされた場合に防ぐことができないというデメリットがあります。
③ 手続の透明性・私的整理案の信頼性・公平性が確保されない場合がある
私的整理は裁判所の関与がないことから手続の不透明な面があること、私的整理案について一部の債権者が有利な条件になっている等、公平性に疑問が残るような場合もあります。
④ 債権者にとって税金の処理が不明確な場合がある
破産や民事再生の場合は債権者が回収できなかった債権を問題なく損金処理できるというメリットがありますが、私的整理の場合は法人税基本通達の要件を充たすか否かが不明確な場合もあります。
もっとも、「私的整理ガイドライン」「整理回収機構(RCC)スキーム」「中小企業再生支援協議会スキーム」に基づいて私的整理を行う場合には、債権者が行った債権放棄・債務免除による損失について、無税償却が認められます。
⑤ 弁護士費用が高額になる
法的整理と異なり、債権者との個別交渉が必要となること、また、再建型私的整理の場合には詳細な資産調査(デューデリジェンス)が必要になること等から、弁護士費用が会社破産の場合よりも高額になります。
「私的整理ガイドライン」とは
再建型の私的整理には、「私的整理に関するガイドライン(私的整理ガイドライン)」に沿って行う方法があります。
「私的整理ガイドライン」は、経団連や全国銀行協会等を委員とする「私的整理に関するガイドライン研究会」が公表したもので、銀行などの金融機関が貸出取引先に対し債権放棄等を行う場合の指針であり、公平で透明性のある私的整理を行うためのルールです。
ガイドラインには法的拘束力はないものの、金融機関等の主要債権者及び対象となる債権者、債務会社、その他の利害関係人によって自発的に尊重・遵守されることが期待されています。
もっとも、経営難の会社全てがガイドラインの適用を受けられるわけではありません。ガイドラインが想定する会社の再建は、法的整理手続を利用するのでは事業価値が著しく毀損され再建に支障が生じるおそれがあり、私的整理を選択した方が会社と債権者の双方にとって経済的に合理性がある場合に限定されています。
具体的には以下が要件となっています。
① 自力再建が困難であること
過剰債務を主な原因として経営が困難な状況に陥っており、自力による再建が困難であることが必要です。
② 事業価値の存在と、債権者の支援による再建の可能性があること
会社に事業価値があり(たとえば技術・ブランド・商圏・人材などの事業基盤があり、その事業に収益性や将来性があること)、重要な事業部門で営業利益を計上している(黒字である)など、債権者の支援によって再建の可能性があることが必要です。
③ 法的整理を利用すると事業価値毀損の可能性があること
会社更生や民事再生などによる法的整理手続を利用すると、会社の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損されるなど、事業再建に支障が生ずるおそれがあることが必要です。
④ 債権者の経済的合理性があること
私的整理によって再建した方が、破産や会社更生、民事再生などの法的整理によるよりも多額の債権回収を得られる見込が確実であるなど、債権者にとっても経済的合理性が期待できることが必要です。